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The Dalai Lama’s Dilemma
「The Dalai Lama’s Dilemma 」というアメリカのチベット専門家メルヴィン・ゴールドシュタイン氏の論文を日本語訳で読んだ。10年前に書かれたものだが、今読んでも示唆に富んでいる。現状を予測したような次のような記述もある。
チベット社会の性格が明らかに変化しつつあるこのときに、ダライ・ラマが中国の政策を穏健路線へと向かわせ るのに失敗すれば、戦闘的なチベット人勢力がダライ・ラマ流の市民的不服従というアプローチの失敗を宣言し、より暴力的なやり方に訴える可能性もある。心 しておくべきは、北京政府が故郷を変えていくのを、チベット人が何もせずに手をこまぬいて傍観していることはほぼあり得ないということだ。(Foreign Affairs日本語版1998年3月号)
80年代前半に鄧小平政権とダライ・ラマが北京で2度にわたり秘密会談を行ったが決裂したこと。その後、ダライ・ラマが国際的キャンペーンに訴えるようになっていく経緯を解説した部分は興味深い。「Foriegn Affairs」の論文らしく事態を紹介するだけに止まらず、具体的な政策にまで踏み込んでいる。ゴールドシュタイン氏は、チベット問題解決のための妥協策として、政治、文化、経済などの領域について、以下のような政策を提示する。
- チベット自治区の枠組みを維持しつつ、チベットの共産党および政府の指導的ポストに改革派チベット人を任命する。チベット人官僚を増大させる効果がある。
- 2カ国語教育の比重をチベット語に移す。公用言語にチベット語を復活させる。
- チベット内の非チベット人の数を減らす。外からの経済の競争圧力を減らす措置を取る。
今回の暴動を「人民戦争」「大蜂起」などとして厳しく弾圧する胡錦濤国家主席の中国政府がこうした政策を実行することは可能だろうか。いずれにせよ、そのためにはダライ・ラマが中国の主権を認めることが大前提と指摘する。
中国側からここに示したような譲歩を引き出すには、ダライ・ラマはまず中国、そしてチベットに戻り、チベッ トにおける中国の主権を公に認め、チベット人と非チベット人との間の協力と調和を実現するために積極的に行動する必要がある。とりわけ、中国に対する国際 的非難をやめて、ラサのチベット人を説得して騒乱をやめさせなければならないし、真のチベット人によるチベットと中国の一部であることの間に本質的な矛盾 がなく、両立可能であることを認めるべきだろう。(同)
国際社会はダライ・ラマと中国政府との対話を促している。ただ、ダライ・ラマと胡錦濤主席や温家宝首相が会談すれば物事が動くわけではない。具体的な解決策を何らかの形で両者に提示していく「第3者」が必要である。圧力を掛けつつ仲介する国がなければ、中国政府が譲歩することはあり得ないからだ。アメリカの外交政策をどうするかという観点から書かれているこの論文では、ゴールドシュタイン氏は次のように結論付けている。
であればこそ事態を進展させるには、音頭取りか進行役が必要である。直接的な非公式外交であれ、調停代理国の斡旋であれ、米国はどのように建設的役割を果たせるか、という設問への解答がここにある。ダライ・ラマの中国に対する不信が根深いことを思えば、もし中国に戻った後に中国側が約束を反故にするよう な挙に出れば、米国は彼を守るために強い行動をとると約束する必要があるだろう。他方で、米国政府は北京に対して、米議会や欧米諸国の強硬派が何を言おう とも、新しい取り決めを壊さぬように配慮すると約束すべきである。(同)
レーム・ダックのブッシュ大統領にこうしたアプローチを取ることができるかどうか。それとも、11月の大統領選の争点として浮上し、具体的なチベット和平案を議論することになるのか。北京五輪の開会式ボイコットなどという消極的なアピールではなく、より踏み込んだ対応をするべきときが来ている。