‘東アジア’ カテゴリーのアーカイブ
North Korea’s Pendulum
韓国で保守派の李明博政権誕生に合わせ、北朝鮮が韓国に対し強硬的な姿勢を強め始めた。時系列的に並べてみる。
- ミグ21が南北軍事境界線に接近(2月25日以降)
- 開城工業団地からの韓国政府当局者の追放(3月27日)
- 黄海での短距離ミサイル発射(3月28日)
- 韓国政府当局者の軍事境界線の通過拒否(3月29日)
- 南北対話を中断を宣言(4月3日)
このような北朝鮮の戦線拡大は4月9 日に行われる韓国の国会議員総選挙を控え“韓国内での対立”をそそのかそうという意図と見られる。統一研究院の鄭永泰(チョン・ヨンテ)博士は「南北間の 緊張造成の責任を新政府と米国になすりつけ、韓国内の進歩勢力の結集を図る可能性がある」と述べ「北朝鮮政府と軍の意図的な行動と見られる」と述べた。【中央日報 】
3 月31日付の中央日報(日本語版)は、9日に迫る韓国総選挙に影響力を行使しようとする北朝鮮の戦術とみる。「太陽政策」の金大中政権を引き継ぎ、2度目 の南北首脳会談を実現した盧武鉉政権から李政権に代わったばかりのこの時期に、議会で与党ハンナラ党の勢力を減らすことで、李明博政権の国内基盤を弱体化 させる狙いということだ。
だが度が過ぎるのではないか。1994年の「ソウルを火の海にする」発言ほどではないが、過激化している。李明博政権の誕生になぜ、ここまで警戒するの か。対外的には、「核計画の完全で正確な申告」をめぐって6カ国協議が停滞し、会議で合意した見返りがいつ届くのか決まらないということがある。食糧難も 伝えられており、苦境を打開するためにお得意の戦術である「危機の醸成」を試みたという見方ができる。
しかし、中央日報の3月31日付の社説はこう書く。「危機の醸成」はもう効果がないということだ。
大部分の韓国側国民は過去10年間の対 北政策を通じて習得した「学習効果」がある。それは「北朝鮮をなだめて支援を拡大すれば、いつかは南北関係が本当に安定する」という主張に信頼を置けない ということだ。特に北朝鮮の核実験はこうした学習効果を極大化した。李明博政府の誕生にはこのように誤った対北政策を変えなければならないという国民的要 望が反映された側面がある。
早稲田大学の重村智計氏が指摘するように、北朝鮮の外交戦略の基軸は「振り子外交」であった。冷戦時代には、中ソの間を行ったり来たりした。冷戦崩壊後は 日米韓3カ国の間で揺れ動いてきた。韓国に厳しく当たるときには、日本と国交正常化交渉をやってみたりという具合だ。だが、その振り子の動きを止めてしま おうというのが6カ国協議だった。今のように韓国に激しい言葉を投げ掛ける代わりに、日本政府に拉致問題で甘い言葉をささやいてくるような「振り子外交」 をやろうとしても日本は応じないだろう。
ただし、アメリカがどう動くかは注意した方がいいかもしれない。外交での成果が欲しいブッシュ政権は2国間交渉を進めてしまう可能性は否定できない。
The Dalai Lama’s Dilemma
「The Dalai Lama’s Dilemma 」というアメリカのチベット専門家メルヴィン・ゴールドシュタイン氏の論文を日本語訳で読んだ。10年前に書かれたものだが、今読んでも示唆に富んでいる。現状を予測したような次のような記述もある。
チベット社会の性格が明らかに変化しつつあるこのときに、ダライ・ラマが中国の政策を穏健路線へと向かわせ るのに失敗すれば、戦闘的なチベット人勢力がダライ・ラマ流の市民的不服従というアプローチの失敗を宣言し、より暴力的なやり方に訴える可能性もある。心 しておくべきは、北京政府が故郷を変えていくのを、チベット人が何もせずに手をこまぬいて傍観していることはほぼあり得ないということだ。(Foreign Affairs日本語版1998年3月号)
80年代前半に鄧小平政権とダライ・ラマが北京で2度にわたり秘密会談を行ったが決裂したこと。その後、ダライ・ラマが国際的キャンペーンに訴えるようになっていく経緯を解説した部分は興味深い。「Foriegn Affairs」の論文らしく事態を紹介するだけに止まらず、具体的な政策にまで踏み込んでいる。ゴールドシュタイン氏は、チベット問題解決のための妥協策として、政治、文化、経済などの領域について、以下のような政策を提示する。
- チベット自治区の枠組みを維持しつつ、チベットの共産党および政府の指導的ポストに改革派チベット人を任命する。チベット人官僚を増大させる効果がある。
- 2カ国語教育の比重をチベット語に移す。公用言語にチベット語を復活させる。
- チベット内の非チベット人の数を減らす。外からの経済の競争圧力を減らす措置を取る。
今回の暴動を「人民戦争」「大蜂起」などとして厳しく弾圧する胡錦濤国家主席の中国政府がこうした政策を実行することは可能だろうか。いずれにせよ、そのためにはダライ・ラマが中国の主権を認めることが大前提と指摘する。
中国側からここに示したような譲歩を引き出すには、ダライ・ラマはまず中国、そしてチベットに戻り、チベッ トにおける中国の主権を公に認め、チベット人と非チベット人との間の協力と調和を実現するために積極的に行動する必要がある。とりわけ、中国に対する国際 的非難をやめて、ラサのチベット人を説得して騒乱をやめさせなければならないし、真のチベット人によるチベットと中国の一部であることの間に本質的な矛盾 がなく、両立可能であることを認めるべきだろう。(同)
国際社会はダライ・ラマと中国政府との対話を促している。ただ、ダライ・ラマと胡錦濤主席や温家宝首相が会談すれば物事が動くわけではない。具体的な解決策を何らかの形で両者に提示していく「第3者」が必要である。圧力を掛けつつ仲介する国がなければ、中国政府が譲歩することはあり得ないからだ。アメリカの外交政策をどうするかという観点から書かれているこの論文では、ゴールドシュタイン氏は次のように結論付けている。
であればこそ事態を進展させるには、音頭取りか進行役が必要である。直接的な非公式外交であれ、調停代理国の斡旋であれ、米国はどのように建設的役割を果たせるか、という設問への解答がここにある。ダライ・ラマの中国に対する不信が根深いことを思えば、もし中国に戻った後に中国側が約束を反故にするよう な挙に出れば、米国は彼を守るために強い行動をとると約束する必要があるだろう。他方で、米国政府は北京に対して、米議会や欧米諸国の強硬派が何を言おう とも、新しい取り決めを壊さぬように配慮すると約束すべきである。(同)
レーム・ダックのブッシュ大統領にこうしたアプローチを取ることができるかどうか。それとも、11月の大統領選の争点として浮上し、具体的なチベット和平案を議論することになるのか。北京五輪の開会式ボイコットなどという消極的なアピールではなく、より踏み込んだ対応をするべきときが来ている。
海峡を越えるパンダは民主主義の夢を見るか
台湾総統選は野党・国民党の馬英九前主席の圧勝に終わった。国民党主席だった連戦氏が2005年に訪中しているように、馬氏が中国首脳と会談を持つ機会が 来るかもしれない。陳水扁政権が事実上拒否した中国からのパンダ贈呈受け入れも決まりそうだ。今後、中台対話が進むだろうというのが一般的な見方だ。
そ の一方で、馬氏は選挙前、チベット暴動に絡み北京五輪ボイコットを示唆するなど、今後を楽観視できない要素もある。馬氏が当選を果たしたのは、定着した 「台湾人意識」にうまく乗っかれたから。陳政権の行き過ぎた独立志向には賛同しなくても、台湾住民にとって「台湾人」アイデンティティは自然なものと なった。「独立」でも「統一」でもない「現状維持」を求めるものだが、これは統一志向の中国の政策とは対立する。
中国の「国体」が清朝以来の領土保全であるとすれば、台湾が譲れないものは、2度の政権交代を平和裏に達成した民主主義という制度である。台湾島の代表者 は自分たちで選ぶという原則だ。中国の領土保全に対する強い意志が人権を超越するのは、チベット暴動の弾圧ぶりを見れば明らかで、台湾人の警戒感も高まっ ているだろう。
さらに、背景的な部分では、2009年にも台湾海峡の制空権が中国に移行するとの分析がある。F16売却問題など、米国からの軍事協力が以前よりも低調な台湾に比べ、軍の近代化を急ぐ中国が次第に海峡の軍事バランスを変更しつつある。
そんな中で、パンダ贈呈は明るいニュースではある。 ただ、様々な問題を孕んでいなくもない。
台湾行きを拒否されたジャイアントパンダの団団(トゥアントゥアン・オス)と円円(ユアンユアン・メス)は四川省の臥竜パンダ保護研究センターで 大切に育てられてきた。2頭の名前を合わせると「離れた家族が再開する」という意味の「団円」という単語になる。04年に生まれた2頭は今年夏で満4歳を 迎える。体重は既に100キロを超え、そろそろ繁殖可能になるという。【朝鮮日報・日本語電子版】
馬氏が台北市長時代に述べたように「パンダは共産党員ではない」のは間違いないが、この2頭は「中国人」なのか「台湾人」なのか。ウィキペディアを見て 知ったが、パンダには国籍があるらしい。ほとんどが中国籍で、それ以外のパンダは数頭しかいないそうだ。近年のパンダ外交はレンタルに限られており、レン タル料を取り、いずれは中国に帰国する方式になっている。
今回のパンダ2頭は「贈呈」とされているから、レンタルではないのだろう。中国側の論理から言えば、「国内」にレンタルするのは変な話だ。とはいえ陳政権が拒否した理由として、野生動物の国際取引を規制するワシントン条約に違反していることを挙げた。中国側は「国内の取引」と主張しており、かなり微妙な問題ではある。
贈呈であれば、国籍が相手国のものに変わると思われるが、繁殖して生まれたパンダの権利にも関わってくるはず。ところが、中国は台湾を国と認めていない。例えば、台湾で生まれたパンダを台湾政府が他 国にレンタルできるのかどうか。その辺はあいまいなままやっていくのかもしれない。統治の問題も、あいまいなまま解決しようとする「パンダ・モデル」とで も言える先例につなげていく知恵を絞れないものか。
チベット!チベット!
「チベット!チベット!」
歌姫ビョークが上海のコンサート会場で発したメッセージに呼応したわけではあるまいが、14日に中国チベット自治区ラサで発生した暴動の余波が続いている。The Economistのジェームズ・マイルズ記者がラサからルポを送ったほかは、海外メディアはチベット自治区から閉め出されており、正確な死傷者数を含め「何が起こったのか」を今も明示することは難しい。
青蔵鉄道などの西部大開発によって経済発展の恩恵を与え、独立志向を弱めようとしてきた中国政府の思惑は、そもそも構造的に失敗だったことが露呈した。どのような投資を行ったとしても、結局は漢族の利益にしかならず、チベット族の暮らし向きは決してよくなっていないのである。
中国政府の対応に世界中の注目が集まる中、温家宝首相は「ダライ集団の謀略」などとして、暴動の首謀者をチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と決めつけた。だが、The Economistの記事は、対ダライ・ラマをめぐる中国政府の揺れを記している。
Chinese officials have been divided over whether greater contact with the Dalai Lama would help to pacify Tibet. Between 2002 and July last year Chinese officials held six rounds of talks with the Dalai Lama’s representatives. Laurence Brahm, an American author who has tried to mediate, says the discussions reached a high point in 2005 when the Chinese appeared to recognise that the Dalai Lama was crucial to resolving Tibet’s tensions. (The Economist)
北京五輪を前に中国が事態の沈静化を図るには、ダライ・ラマとの接触が必要ではないか。「人民戦争」「文化的虐殺」と激しい言葉の応酬が続いているが、ブラウン英首相と電話会談した温首相は、独立を支持しないことなどを条件に、ダライ・ラマと対話する用意があると語ったという。暴動の波及が止まなければ、チベットへの投資や観光需要が減ることも想定され、チベット族はますます困窮しかねないジレンマもある。
もちろん、中国が国際社会の圧力を受け、チベットの独立や高度の自治を安易に認めるということは考えにくい。台湾を含めた「領土保全」は、行動原理の最上位に位置しているからだ。
チベット弾圧は許されないし、今回の事態では国際機関の調査を求めたいと思う。だが、胡錦濤政権を過度に追い込めれば、軍部や上海閥の台頭を許すだけの 結果になる。率直にいって彼らには複雑化しグローバル化する中国を統治する能力などないのだから、壮大な惨事を引き起こしかねない。日本国としては、穏便 に北京政府を支援していくのは妥当だろうと思う。(極東ブログ)
極東ブログは、中国全人代の開催時期と暴動の発生が重なったことに注目し、中南海の権力闘争との関係を慎重に検討する。そうした議論には与しないし、胡錦濤政権が傾くと上海閥や軍部が台頭するのかどうかは不明だが、中国政府が震撼するような事態が続けば、「チャイナ・リスク」が高まるのは間違いない。米国防総省の老軍師アンドリュー・マーシャル氏は、中国の脅威とは、軍事大国化の脅威ではなく、中国不安定化の脅威だと指摘する。
一市民として、チベットの人権状況の改善を訴えることはできても、国家として日本ができることは、「死傷者が拡大しないようにあらゆる関係者に自制を促したい」(高村外相)などと主張するのに止まるだろう。歯がゆさが残る。