4月 2008のアーカイブ
North Korea’s Pendulum
韓国で保守派の李明博政権誕生に合わせ、北朝鮮が韓国に対し強硬的な姿勢を強め始めた。時系列的に並べてみる。
- ミグ21が南北軍事境界線に接近(2月25日以降)
- 開城工業団地からの韓国政府当局者の追放(3月27日)
- 黄海での短距離ミサイル発射(3月28日)
- 韓国政府当局者の軍事境界線の通過拒否(3月29日)
- 南北対話を中断を宣言(4月3日)
このような北朝鮮の戦線拡大は4月9 日に行われる韓国の国会議員総選挙を控え“韓国内での対立”をそそのかそうという意図と見られる。統一研究院の鄭永泰(チョン・ヨンテ)博士は「南北間の 緊張造成の責任を新政府と米国になすりつけ、韓国内の進歩勢力の結集を図る可能性がある」と述べ「北朝鮮政府と軍の意図的な行動と見られる」と述べた。【中央日報 】
3 月31日付の中央日報(日本語版)は、9日に迫る韓国総選挙に影響力を行使しようとする北朝鮮の戦術とみる。「太陽政策」の金大中政権を引き継ぎ、2度目 の南北首脳会談を実現した盧武鉉政権から李政権に代わったばかりのこの時期に、議会で与党ハンナラ党の勢力を減らすことで、李明博政権の国内基盤を弱体化 させる狙いということだ。
だが度が過ぎるのではないか。1994年の「ソウルを火の海にする」発言ほどではないが、過激化している。李明博政権の誕生になぜ、ここまで警戒するの か。対外的には、「核計画の完全で正確な申告」をめぐって6カ国協議が停滞し、会議で合意した見返りがいつ届くのか決まらないということがある。食糧難も 伝えられており、苦境を打開するためにお得意の戦術である「危機の醸成」を試みたという見方ができる。
しかし、中央日報の3月31日付の社説はこう書く。「危機の醸成」はもう効果がないということだ。
大部分の韓国側国民は過去10年間の対 北政策を通じて習得した「学習効果」がある。それは「北朝鮮をなだめて支援を拡大すれば、いつかは南北関係が本当に安定する」という主張に信頼を置けない ということだ。特に北朝鮮の核実験はこうした学習効果を極大化した。李明博政府の誕生にはこのように誤った対北政策を変えなければならないという国民的要 望が反映された側面がある。
早稲田大学の重村智計氏が指摘するように、北朝鮮の外交戦略の基軸は「振り子外交」であった。冷戦時代には、中ソの間を行ったり来たりした。冷戦崩壊後は 日米韓3カ国の間で揺れ動いてきた。韓国に厳しく当たるときには、日本と国交正常化交渉をやってみたりという具合だ。だが、その振り子の動きを止めてしま おうというのが6カ国協議だった。今のように韓国に激しい言葉を投げ掛ける代わりに、日本政府に拉致問題で甘い言葉をささやいてくるような「振り子外交」 をやろうとしても日本は応じないだろう。
ただし、アメリカがどう動くかは注意した方がいいかもしれない。外交での成果が欲しいブッシュ政権は2国間交渉を進めてしまう可能性は否定できない。
The Dalai Lama’s Dilemma
「The Dalai Lama’s Dilemma 」というアメリカのチベット専門家メルヴィン・ゴールドシュタイン氏の論文を日本語訳で読んだ。10年前に書かれたものだが、今読んでも示唆に富んでいる。現状を予測したような次のような記述もある。
チベット社会の性格が明らかに変化しつつあるこのときに、ダライ・ラマが中国の政策を穏健路線へと向かわせ るのに失敗すれば、戦闘的なチベット人勢力がダライ・ラマ流の市民的不服従というアプローチの失敗を宣言し、より暴力的なやり方に訴える可能性もある。心 しておくべきは、北京政府が故郷を変えていくのを、チベット人が何もせずに手をこまぬいて傍観していることはほぼあり得ないということだ。(Foreign Affairs日本語版1998年3月号)
80年代前半に鄧小平政権とダライ・ラマが北京で2度にわたり秘密会談を行ったが決裂したこと。その後、ダライ・ラマが国際的キャンペーンに訴えるようになっていく経緯を解説した部分は興味深い。「Foriegn Affairs」の論文らしく事態を紹介するだけに止まらず、具体的な政策にまで踏み込んでいる。ゴールドシュタイン氏は、チベット問題解決のための妥協策として、政治、文化、経済などの領域について、以下のような政策を提示する。
- チベット自治区の枠組みを維持しつつ、チベットの共産党および政府の指導的ポストに改革派チベット人を任命する。チベット人官僚を増大させる効果がある。
- 2カ国語教育の比重をチベット語に移す。公用言語にチベット語を復活させる。
- チベット内の非チベット人の数を減らす。外からの経済の競争圧力を減らす措置を取る。
今回の暴動を「人民戦争」「大蜂起」などとして厳しく弾圧する胡錦濤国家主席の中国政府がこうした政策を実行することは可能だろうか。いずれにせよ、そのためにはダライ・ラマが中国の主権を認めることが大前提と指摘する。
中国側からここに示したような譲歩を引き出すには、ダライ・ラマはまず中国、そしてチベットに戻り、チベッ トにおける中国の主権を公に認め、チベット人と非チベット人との間の協力と調和を実現するために積極的に行動する必要がある。とりわけ、中国に対する国際 的非難をやめて、ラサのチベット人を説得して騒乱をやめさせなければならないし、真のチベット人によるチベットと中国の一部であることの間に本質的な矛盾 がなく、両立可能であることを認めるべきだろう。(同)
国際社会はダライ・ラマと中国政府との対話を促している。ただ、ダライ・ラマと胡錦濤主席や温家宝首相が会談すれば物事が動くわけではない。具体的な解決策を何らかの形で両者に提示していく「第3者」が必要である。圧力を掛けつつ仲介する国がなければ、中国政府が譲歩することはあり得ないからだ。アメリカの外交政策をどうするかという観点から書かれているこの論文では、ゴールドシュタイン氏は次のように結論付けている。
であればこそ事態を進展させるには、音頭取りか進行役が必要である。直接的な非公式外交であれ、調停代理国の斡旋であれ、米国はどのように建設的役割を果たせるか、という設問への解答がここにある。ダライ・ラマの中国に対する不信が根深いことを思えば、もし中国に戻った後に中国側が約束を反故にするよう な挙に出れば、米国は彼を守るために強い行動をとると約束する必要があるだろう。他方で、米国政府は北京に対して、米議会や欧米諸国の強硬派が何を言おう とも、新しい取り決めを壊さぬように配慮すると約束すべきである。(同)
レーム・ダックのブッシュ大統領にこうしたアプローチを取ることができるかどうか。それとも、11月の大統領選の争点として浮上し、具体的なチベット和平案を議論することになるのか。北京五輪の開会式ボイコットなどという消極的なアピールではなく、より踏み込んだ対応をするべきときが来ている。
Global populism isn’t bad?
BBCが2日に発表した国際世論調査 (34カ国で実施)によると、世界に良い影響を与える国の1位は平均56%で日本とドイツが並んだ。 日本は去年に引き続きトップだった。対象となったのは13カ国+EUのみで、世界中の国というわけではないのでやや注意。BBCのニュースは、どこが1位かという点よりも、アメリカのイメージが前年よりも若干回復したというところに主眼が置かれている。
BBCのサイトにあるPDFで調査の内訳を見てみると、日本について、「ネガティブな影響を与えている」が「良い影響を与えている」を上回っているのは、想定通りではあるが、韓国(52%)と中国(55%)の2カ国のみ。ただし、メキシコが見る日本のイメージは「良い影響」(29%)と「ネガティブな影響」(26%)が拮抗した数字となっている。その他、「ネガティブ」の数字がやや高いのはエジプト(38%)。小泉政権以降の米国に追随した中東政策の結果であろうか。ちなみに、エジプトはドイツに対しても「ネガティブ」が43%と高くなっている。
調査捕鯨やラッド新首相の素通り問題で、お互いにイメージが悪化しそうなオーストラリアをチェックしてみると、70%が日本は「良い影響を与えている」としている。来年の調査結果ではこの数字が低下するかもしれない。
北朝鮮についての調査結果を見ると、「ネガティブな影響」と回答した人が日本では90%と突出している。
日本、ドイツ、EU、フランス、イギリス、ブラジル、中国、インド、ロシア、アメリカ、北朝鮮、パキスタン、イスラエル、イラン
順位を列挙するとこうなる。良い、悪いを選んだ理由は調査されていないので想像するしかないけれども、「軍事」から遠いイメージがある国ほど順位が高いように思う。最近の政治は世論調査の結果に左右される「ポピュリズム政治」と批判されることが多い。とはいえ、近隣友好に課題を抱える日本にとっては、こうした国際世論調査を外交政策にフィードバックしていくことは重視していいかもしれない。日本のどんな点が国際的に良いイメージを与えているか。それを維持するためにはどういう外交政策を取るべきか。そんなことを考える材料になりそうだ。